二十世紀のパリ

先日、ジュール・ヴェルヌ作「二十世紀のパリ」を読み終えました。1863年に執筆、当時から約100年後の1960年の時代設定です。今から考えると、およそ150年に書かれた、50年前が舞台の未来SF小説です。

ヴェルヌはSF小説のはじまりの一人といえる作家で、この作品はデビュー作「気球に乗って五週間」の後に書かれたそうですが、出版者が「荒唐無稽すぎる」と本にすることを拒んだため、そのままお蔵入りとなったそうです。ヴェルヌの著作リストに載っていたものの、作品自体は誰も知らない幻の小説だったそうです。作品の草稿が発見されたのは1991年。ヴェルヌのひ孫が、先祖の金庫を開けた中身から発見したそうです。
ヴェルヌといえば「海底二万マイル」、「地底旅行」などの科学冒険小説の作家です。著作全体を「驚異の旅」と称することもあるそうです。ただ今回読み終えた「二十世紀のパリ」は楽しい冒険物とは、ほど遠い作品です。
物語は科学文明が発展して、実利や効率を優先するようになった二十世紀のパリを想定しています。主人公は学校で、時代遅れのラテン詩をただ一人作って卒業した、詩人志望の青年ミシェル。彼が目にする物、体験する出来事は、実際の未来に似ているところも多くあります。鉄道の発展や電球、エレベーターなど。
執筆時のヴェルヌは35歳。劇場の秘書の仕事をしながら、劇作家を目指すも、花開くことはなかったようです。その状況を踏まえると、「二十世紀のパリ」のため息ぶりが納得できます。演劇の脚本を、型どおりに書く仕事があって、それに主人公が四苦八苦している様子が見て取れます。
楽しい冒険物以外のヴェルヌ作品を読むのはこれが初めてだったので、新鮮でした。また、挿画と挿絵が素敵です。もちろん草稿が発見された二十世紀に、新たに描かれているはずですが、ヴェルヌの時代を感じさせる絵です。小説が未来を描くなら、挿絵は過去を描いているのですね。参考にして私も描いてみました。
二十世紀のパリ_ペンイラスト
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